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津家庭裁判所 昭和49年(少)110号 決定

少年 T・K(昭二九・五・一九生)

主文

この事件を津地方検察庁検察官に送致する。

理由

1  罪となるべき事実及び罰条

司法警察員作成の昭和四九年二月一九日付少年事件送致書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

2  刑事処分相当と認める理由

(1)  少年の生育歴等

少年は、本籍地において出生し小学校に入学したが、小学生当時から万引などの非行があつたため小学校四年生当時教護施設に収容されるに至つた。しかし、少年は、右施設収容中にも窃盗や粗暴な行為をなし、同施設を退院後板前見習、土工などの職を転々とするうちに組織暴力団員らと交際を重ねた末、窃盗、恐喝などの非行を犯して昭和四七年八月二四日当庁において中等少年院送致の決定を受けるに至つた。

少年は、そのため瀬戸少年院に収容されて矯正教育を受け、昭和四八年一〇月一二日同院を仮退院して伊勢市に居住する保護者らのもとに帰住し、実父とともに自動車運転助手として働いていたが、わずか一ヶ月ほどして無断で家を飛び出し、その後は家に戻ることなく友人方を転々と泊り歩いたり、路上に駐車中の自動車内で夜を明かすといつた生活を続けるうちに前後二五回にわたる乗用車等の窃盗の外、本件各非行を犯したものである。

(2)  刑事処分相当の理由

少年に対する上記の二五件に及ぶ窃盗保護事件は当庁において昭和四九年二月一日受理し、観護措置決定の上、少年の社会調査等を行い、同月二一日少年を特別少年院に送致する旨の審判をなし少年は現在愛知少年院に在院中のものであるが、右審判の直後に本件が送致されたため、いわゆる余罪として本件につき審判することとなつた。

ところで、少年が現在すでに別件につき収容保護中であることからすると、別件と時期を同じくして敢行された本件非行については、殊更、再度の保護処分ないし刑事処分の方法を選択する必要はないものとも考えられるけれども、前記のように、少年は中等少年院を仮退院しながらその後の生活態度等は少年院収容前のそれと殆んど変ることなく、罪障感や反省心が極めて乏しかつたために仮退院後わずか一ヶ月ほどのちに家出した上、本件非行を犯すに至つたこと、及び、本件非行の態様、方法は極めて粗暴かつ悪質であり、その結果はまことに重大であること、その他少年の年齢、性格、家庭環境等を考えると、少年に対し法律上及び社会生活上の責任を充分認識、理解させ、社会生活上の基本的態度を身につけさせるためにも、本件につきこの際刑事処分に付するのが相当と思料される。

(3)  別件保護処分との関係

もつとも少年は、上記のように、別件収容保護中であり、これが矯正教育によつて少年の非行親和性ないし犯罪性が矯正されることが何よりも望ましい方法であることは多言を要しない。しかしそれにも拘らず、少年に対し本件について刑事処分相当として検察官送致の決定をするのは、上述したような理由によるものであつて、比喩的にいうならば、刑事処分を保護処分の一環として把え、それにふさわしい将来の処遇を期待するからに外ならない。

そうであるとするならば、本件送致決定後における検察官の捜査や公訴提起及びそれに基く裁判所の審理、公判もまた、可及的速やかに遂行され、少年の収容保護(矯正教育)の効果を減殺することのないような細心の留意を払われるよう、この際、切に希望するものである。

3  結論

以上の理由によつて、本件につき刑事処分を相当と認め、少年法二〇条、二三条一項を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判官 泉山禎治)

昭四九・二・一九付少年事件送致書記載の犯罪事実

被疑少年T・Kは、○○市およびその周辺を縄張りとする暴力団○○一家○○組○○分家○○組(組長○田○彦)の組員であるが、

(一) 昭和四八年一一月一八日の夜、○○市○○×丁目所在の○○交通観光バス○○営業所前付近路上において、かねてより自己と交際のあつたK・U子の居所を、同女の友人で右営業所のバスガイドとして勤務する○野○子(一七歳)から聞き出す意図でその機会を待つていたところ、たまたま前記場所において、○○市○○町×××番地会社員○口○夫(二二歳)が運転する普通乗用自動車に乗車したのを現認し、同女に「用があるので一度降りよ」と申し向けたが同女が容易にこれに応じなかつたために腹をたて、その場において右自動車に前記○口○夫、○野○子のほかこれに同乗していた○○市○○町××××番地製函兼手伝○川○郎(二三歳)の三名を無理に乗車させたうえ、自己がこれを無免許運転して走行し、

1 同日午後七時一五分ころ○○市○○町地内の○○市営球場横広場に至り、同所において右○川○郎の顔面を数回足蹴りしてその場に転倒せしめ、さらに同人の胸倉をつかみ手拳で顔面を二、三回殴打したうえ、前記○口○夫に対しても「お前もつれか」と申しむけて、やにわに同人の顔面および腹部を数回足蹴りにしてその場に転倒させさらにこれをとめに入ろうとした、右○野○子に対し「うるさい」と怒号し、手拳で同女の顔面を一回殴打するなどの暴行を加えるなどし、もつて前記○川○郎に対し全治五〇日間の療養を要する右下顎骨々折の傷害を負わせ、

2 同日午後七時一五分ころから午後一〇時四〇分ころまでの間、自己が運転走行中の右自動車内において前記○川○郎、○口○夫、○野○子の三名に対し、「俺らの計画では二人で○子をもてあそんで岐阜へ売りとばすつもりやつた三人売つたら三〇万になる、警察へたれこんだら家に火をつけてやる、人を殺すぐらいなんでもない」などと申しむけ、もつて同人らの生命、身体、財産等に危害を加えるべきことを告知して脅迫し、

3 同日午後一〇時四五分ころ○○市○町地内国道××号線路上に至り同所において、右○川○郎が前記理由によつて畏怖していることに乗じ、金員を喝取しようと企て、右同人に対し「油が入つとらんで油代持つとらんか」などと申し向けて金員を要求し、よつて即時同所で同人より現金一、〇〇〇円の交付を受けてこれを喝取し、

(二) 同年同月二〇日ころの午前九時すぎころ、○○市○町×丁目地区路上においてかねてより交際のあつた○○市○○町××××番地ウエイトレスK・U子(一七歳)の態度がつめたいことに憤激し、同女に対し「お前みたいなやつは売りとばしてやる、○○や○○におれんようにしてやる、家に火をつけてやる」などと申し向け、よつて同女の身体財産等に危害を加えることを告知して脅迫し、

(三) 昭和四九年一月二一日午後七時すぎころ、○○市○○×丁目○○スポーツセンター前路上において自己が無免許にて運転走行中の乗用車と、○○市○○×丁目×番×号ダンプカー運転手○山○司(二五歳)の運転する乗用車とが正面衝突した際、同人が「どこをみて運転しているか」と怒鳴つたことに立腹しその場において同人と口論の末、手拳で右○山○司の顔面を数回殴打して暴行を加え、よつて同人に全治一〇日間を要する顔面打撲傷等の傷害を負わせたものである。

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